・学校法人に遡及処理はあるの?
・資金収支を伴うか否かで処理が違うの?
・どういったものが過年度修正に該当するの?
今回は学校法人における過年度修正について解説します!
そもそも過年度修正とは?
前年度以前に計上した収支の修正!
当年度の経理をしている中で「これ去年間違えていた…」と気が付くことがあります。
人間が処理しますので、当然ミスも出てきます。
そんな過去のミスについて当年度に修正する場合に使う勘定科目が「過年度修正額」です。
学校法人会計基準では以下のように定義されています。
特別収支-事業活動収入の部-その他の特別収入
過年度修正額:前年度以前に計上した収入又は支出の修正額で当年度の収入となるもの
(中略)
特別収支-事業活動支出の部-その他の特別支出
過年度修正額:前年度以前に計上した収入又は支出の修正額で当年度の支出となるもの
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学校法人会計に遡及処理はない!
企業会計には過年度の誤りが発見された場合に過去の決算書を修正する過年度遡及会計処理があります。
しかし、学校法人会計には過年度遡及会計の適用はありません。
これは過年度遡及会計の趣旨が関係しています。
過年度遡及会計は決算書の期間比較可能性の確保のために行います。
学校法人会計においては収支の均衡が目的ですので、過年度の数字との比較ではなく予算との比較を行います。
そのため、期間比較可能性を確保する必要性が低いため、あえて遡及処理する必要性も低いということになります。
資金収支を伴う過年度修正が定義されたのは最近のこと
上記の過年度修正の定義を見ると事業活動収支計算書の区分で定義されていることがわかります。
実は、資金収支を伴う過年度修正については最近まで取り扱いが明確にされていませんでした。
ようやく平成25年の文部科学省令で学校法人会計基準が改正された際に資金収支を伴う過年度修正の定義も明確にされました。
4.過年度修正額
「過年度修正額」のうち、資金収入又は資金支出を伴うものについては、事業活動収支計算書においては小科目「過年度修正額」で処理することとなるが、資金収支計算書及び活動区分資金収支計算書においては、次のとおり処理するものとする。
(1)資金収支計算書においては、資金収入又は資金支出があった年度において、資金収入は大科目「雑収入」に小科目「過年度修正収入」を設け、資金支出は大科目「管理経費支出」に小科目「過年度修正支出」を設けて処理するものとする。
資金収支を伴う過年度修正というものが当初は想定されていなかったんですかね?
当初から定義されていなかったことは非常に不思議です。
学校法人における過年度修正の具体例
①前年度未払計上が漏れてしまった経費の支払い
会計において費用は発生主義での計上が必要です。
そのため、例えば私学共済や退職掛金など3月分を4月に入ってから支払うものは決算時に未払計上が必要です。
このような費用について未払計上が漏れてしまった場合、4月の支払い時に過年度修正額を使います。
この場合は実際に4月の支払い時にお金が動きますので、資金収支計算書にも過年度修正額を表示する必要があります。
②前年度に徴収不能額として処理した債権を回収した
保育料などもらうべき収入について入金がない場合には未収入金を計上します。
しかし、いつまでも入金がなく、もはや入金は見込めないと判断したものについては徴収不能額として貸倒処理を行います。
この貸倒処理をした後に当該債権について入金があった場合、過年度修正額を使います。
この場合も実際にお金が動きますので、資金収支計算書にも過年度修正額を表示する必要があります。
③過年度の減価償却費の計算が誤っていた
学校法人会計においても固定資産については減価償却費計算を行います。
減価償却費の計算において耐用年数が間違っていた、そもそもの取得価額が間違っていたことが発覚することがあります。
この計算誤りを修正する場合、過年度修正額を使います。
この場合は非資金取引の修正ですので、資金収支計算書には表示する必要がありません。
④リース取引の会計処理が間違っていた
学校法人会計において所有権移転外ファイナンスリース取引のうち、条件を満たす場合は賃貸借取引で処理ができます。
しかし、この特例の方に引っ張られてしまい、売買取引として処理すべきものまでも賃貸借取引として処理してしまっているケースは結構多いです。
この計上誤りを修正する場合、過年度修正額を使います。
この場合は計上を修正する際の差額について過年度修正額を使うため、実際にお金は動きません。
資金収支を伴わない過年度修正を行う結果、貸借対照表の未払金と資金収支計算書の前期末未払金支払支出と期末未払金の整合性が崩れてしまいます。
過去に未払金処理していなかったものを会計処理の修正で未払金計上するため資金収支が伴わないので仕方がないですが、違和感がありますね。
⑤未収計上していた収入が入金されないことになった
期末時点で検討を行い、入金が確実であると判断し未収計上した収入について、未収入金を計上します。
しかし、期末日後に何らかの事情により入金されないこととなってしまうことがたまにあります。
この未収入金をオフバランスする処理として、徴収不能額として処理するケースと過年度修正として処理するケースが想定されます。
そもそも期末時点での検討が誤りであったとする場合は過年度修正額の計上が必要になります。
この場合は未収入金を取り消すだけで、実際のお金は動きませんので資金収支計算書には表示する必要はありません。
過去に誤りがあった、という点が次に解説する補助金の返還とは異なります。
【例外】補助金の返還は過年度修正ではない!
交付申請をして支給を受けた補助金について、申請内容に誤りがあったため、後日返還するよう返還命令が出る場合があります。
申請内容に誤りがあって返還するのだから、過年度修正に該当しそうな気がします。
しかし、補助金については一旦補助金の支給額が確定し、その後に改めて補助金返還の決定が行われます。
よって、当初の計算は内容に誤りがあったとしてもそれは既に確定済みのものとして扱う必要があります。
以上より、補助金の返還については過年度修正ではなく、管理経費で「補助金返還支出」として処理します。
まとめ
- 学校法人会計では遡及処理は行わない
- 資金収支を伴う過年度修正は最近定義された
- 補助金の返還は過年度修正ではない
決算を組むうえで誤りがないようにチェックは繰り返し行います。
しかし、人間が行うことですので誤りはどうしても出てきてしまいます。
そのような場合はしっかりと情報を整理したうえで慎重に処理する必要がありますね。