学校法人はその公的な性質から多くの税金がかからないようになっています。
しかし、課税の公平性の観点より一部税金がかかる場合があります。今回はそのうちの「消費税」について解説します。
なお、法人税については以下の記事を参考にしてください。
こんな方におすすめ
- 学校法人における消費税の取り扱いの概要が知りたい
- 学校法人における簡易課税の分類について知りたい
学校法人は大部分が消費税非課税!ただし、一部は課税!
教育に係る役務提供の対価は非課税
学校法人において徴収する授業料や入学金などの収入については、その公的な性質から消費税はかからないものとされています。
消費税法施行令でそれぞれ以下のものが非課税の例として記載されています。
- 授業料・保育料
- 入学金・入園料
- 施設設備費
- 入学検定料・入園検定料
このうち、「施設設備費」について、消費税法基本通達でさらに細分化されています。
(施設設備費の意義)
6-11-2 令第14条の5第3号《教育に係る役務の提供の範囲》に規定する施設設備費とは、学校等の施設設備の整備・維持を目的として学生等から徴収するものをいい、例えば、次の名称で徴収するものが該当する。
施設設備費(料)、施設設備資金、施設費、設備費、施設拡充費、設備更新費、拡充設備費、図書館整備費、施設充実費、設備充実費、維持整備資金、施設維持費、維持費、図書費、図書拡充費、図書室整備費、暖房費(平12課消2-10により改正)
これらのものに共通するのは「全員から一律に徴収する」という性質です。
以下で解説していく課税取引は「全員から一律に徴収する」というルールから外れているものになります。
どういった取引が課税されるのか?
「全員から一律に徴収しない」性質の取引が課税となります。例えば以下のような取引が該当します。
- バスに乗らない園児からは徴収しない「スクールバス維持費」
- 給食を食べない園児からは徴収しない「給食代」
- 園児それぞれが必要なものを購入する「用品代」
全員ではなく、利用者のみが支払う対価は課税される、と考えていただければと思います。
「給食代」「スクールバス維持費」は非課税になる場合も
これも基本は変わらず「全員から一律に徴収する」か否かで判断します。
給食代やスクールバス維持費を保育料や施設設備費に含めて全員から徴収し、年度末などに利用しなかった分を返金しないという取り扱いをしている場合は給食代・スクールバス維持費を含めて保育料・施設設備費が非課税となります。
名目が何か、というよりは実態としてどのように料金を徴収しているか、というところで判断します。
「全員から一律に徴収する」、この基本ルールを当てはめましょう。
小規模な幼稚園でも課税事業者になるケースがある
学校法人は税金がかからない、と油断してはいけません。小規模な幼稚園であってもスクールバス維持費や給食代が課税取引となっていると課税事業者になってしまうケースがあります。
かならず課税売上が1000万円を超えているか否か確認するようにしましょう。
課税売上5000万円以下の場合は簡易課税がおすすめ!
課税売上を確認したら1000万円を超えてしまっていた…。その場合は2年後から課税事業者になり消費税の納付義務が発生します。
課税事業者になると売上や支払いなどを税区分に気を付けて記帳する必要が出てきます。
「この入金は課税」「この支払いは軽減8%」「この入金は非課税」…ということを意識して記帳します。
しかし、小規模な幼稚園などではこういった細かな記帳は非常に煩雑で時間もかかりますし、経理だけをやっているわけではありませんので手が回りません。
そういった場合におすすめなのが「簡易課税制度」です。
課税売上が5000万円以下という条件はありますが、簡易課税制度を利用するとひとまず売上だけを正しく記帳すればよいことになります。
これは簡易課税制度では、課税売上から差し引く課税仕入れの金額を機械的に計算することが出来るからです。
なお、簡易課税制度を利用する場合は課税期間の開始の日の前日までに税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を出す必要があります。
学校法人は3月決算ですので、課税期間の年度に入る前までには出しておく必要があります。
学校法人における簡易課税制度の事業区分
第1種事業:卸売業
卸売行は「事業者」から「事業者」への販売です。学校法人が他の事業者に物を販売した場合は該当しますが、幼稚園などの小規模法人ではあまり出てこない事業区分です。
第2種事業:小売業
小売業は「事業者」から「消費者」への販売です。学校法人では生徒への物品の販売、バザーによる収入などが該当します。
第3種事業:製造業
製造業は学校法人が作成したものを販売する場合に該当します。たとえば、学校法人で写真を撮影して現像して販売した場合は該当することになります。第2種事業との区別が難しいですが、判断基準は「学校法人が手を加えたか」という点です。第2種事業は学校法人は手を加えていませんが、第3種事業は学校法人が手を加えています。
第4種事業:その他の事業
文字通りその他の事業です。例えば園バスの下取りに関する収入や、課税扱いになる給食代などが該当します。
第5種事業:サービス業
学校法人が提供するサービス業としては、スクールバスの運行に関する収入や在園児向けの課外教室の収入、お泊り保育・遠足に関する収入などが該当します。
第6種事業:不動産業
学校法人が行う不動産業は場所貸しがあります。賃貸不動産の運用などは収益事業になってしまいますので、扱いが異なります。
子ども子育て支援新制度に移行すると消費税がかからない?
給食代もスクールバス代も用品代も非課税になる!
平成27年4月1日から始まった子ども子育て支援新制度。この制度に移行すると今まで解説してきた課税取引の多くが非課税になります。
この取り扱いは「子ども・子育て支援新制度に係る税制上の取扱いについて(通知)(平成26年11月18日)」にて明らかになっています。
5 施設型給付費及び地域型保育給付費等の対象となる施設・事業者を利用した場合の保育料等に係る消費税の非課税措置消費税法施行令の一部を改正する政令(平成 26 年政令第 141 号)による改正後の消費税法施行令(昭和 63 年政令第 360 号。以下「新消費税法施行令」という。)第 14 条の 3第6号の規定により、子ども・子育て支援法に基づく施設型給付費、特例施設型給付費、地域型保育給付費及び特例地域型保育給付費の支給に係る事業として行われる資産の譲渡等について、消費税が非課税とされたこと。
難しく書いていますが、簡単にまとめると子ども子育て支援新制度に移行すると以下のものが非課税になります。
- 給食費(2号認定の副食費と3号認定の給食費除く)
- 用品代
- 行事費
- スクールバス維持費
- 特定教育・保育施設の利用において通常必要とされるものに係る費用であって、保護者に負担させることが適当と認められるもの
この場合、「全員から一律に徴収する」という前提がなくてもOKです。
私学助成園と子ども子育て支援新制度で消費税の取り扱いが違うので注意です。
まとめ
- 学校法人でも消費税がかかる場合がある
- 基本は「全員から一律に徴収する」か否かで判断
- 課税売上が5000万円以下は簡易課税がおすすめ
- 子ども子育て支援新制度は消費税が基本的にかからない
学校法人の消費税については課税取引と非課税取引が入り混じっています。
できる限り非課税取引を増やして消費税がかからないようにできないか、検討してみてはいかがでしょうか。