公益法人である学校法人が多くの面で税金が免除される措置が取られています。
しかし、一部課税されるケースがあり、代表的なものが「収益事業」です。
今回は学校法人が行う収益事業について解説していきます。
こんな方におすすめ
- 学校法人が行う収益事業の概要が知りたい
- 収益事業を行う場合の注意点を知りたい
そもそも収益事業とは?
学校法人が経営に充てるために行う事業!
学校法人は基本的にその活動はすべて非営利のものとされており、学校法人の活動によって生じた利潤には税金が課税されないこととなっています。
しかし、学校法人であっても営利活動を禁止するものではありませんので、法人の選択により営利活動を行う場合があります。これが収益事業です。
収益事業については私立学校法で以下のように定義されております。
(収益事業)
第二十六条 学校法人は、その設置する私立学校の教育に支障のない限り、その収益を私立学校の経営に充てるため、収益を目的とする事業を行うことができる。
引用元:私立学校法
「収益を目的とする事業」、そのまんまですね。
収益事業として実施できる事業は限定されている
収益を目的とする事業が認められているとはいえ、法人の好きな事業がなんでもできるわけではありません。
私立学校法では以下のように制限を加えています。
(収益事業)
第二十六条
(中略)
2 前項の事業の種類は、私立学校審議会又は学校教育法第九十五条に規定する審議会等(以下「私立学校審議会等」という。)の意見を聴いて、所轄庁が定める。所轄庁は、その事業の種類を公告しなければならない。
引用元:私立学校法
学校法人が実施できる収益事業は所轄庁が定めることとなっています。所轄庁は国や都道府県です。
今回は東京都の例に見てみましょう。東京都においては学校法人が実施できる収益事業を以下のように定めています。
私立学校法第二十六条第二項の規定により、東京都知事の所轄に属する学校法人(同法第六十四条第四項の法人を含む。)の行うことのできる収益事業の種類を次のように定める。
第一 私立学校法第二十六条第一項の規定により、学校法人の行うことのできる収益事業の種類は、第二に掲げるものであって、次の各号のいずれにも該当しないものでなければならない。
一 経営が投機的に行われるもの
二 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)に規定する営業及びこれらに類似する方法によって経営されるもの
三 規模等が当該学校法人の設置する学校の状態に照らして不適当なもの
四 学校法人以外の者に対する名義の貸与その他不当な方法によって経営されるもの
五 当該学校法人の設置する学校の教育に支障のあるもの
六 その他内容、経営方法等が当該学校法人としてふさわしくないもの
第二 収益事業の種類は、統計法(平成十九年法律第五十三号)第二条第九項に規定する統計基準として定める日本標準産業分類に定めるもののうち、次に掲げるものとする。
一 農業、林業
二 漁業
三 鉱業、採石業、砂利採取業
四 建設業
五 製造業(「武器製造業」に関するものを除く。)
六 電気・ガス・熱供給・水道業
七 情報通信業
八 運輸業、郵便業
九 卸売業、小売業
十 保険業(「保険媒介代理業」及び「保険サービス業」に関するものに限る。)
十一 不動産業(「建物売買業、土地売買業」に関するものを除く。)、物品賃貸業
十二 学術研究、専門・技術サービス業
十三 宿泊業、飲食サービス業(「料亭」、「酒場、ビヤホール」及び「バー、キャバレー、ナイトクラブ」に関するものを除く。)
十四 生活関連サービス業、娯楽業(「遊戯場」に関するものを除く。)
十五 教育、学習支援業(「学校教育」及び「学習塾」に関するものを除く。)
十六 医療、福祉
十七 複合サービス事業
十八 サービス業(他に分類されないもの)
第三 前項各号に掲げる事業には、当該学校法人の設置する学校の教育の一部及びこれに類する事業、又はこれに附随して行われる事業を含まないものとする。
第四 収益事業の種類を寄附行為に記載する場合には、日本標準産業分類の名称を例として具体的に記載するものとする。
定め方として、「第一」で「こういった事業はダメです」という例を、「第二」で「こういった事業はOKです」という例を挙げています。
比較的よく見る収益事業は「不動産業」でしょうか。
法人が家賃収入を得ているケースはよく拝見します。
収益事業は寄附行為に定める
収益事業は「始めます」と宣言すればすぐできるものではありません。
寄附行為に収益事業を行う旨を追加し、認可申請を所轄庁に行う必要があります。
これは私立学校法第30条第1項9号に規定があります。
(申請)
第三十条 学校法人を設立しようとする者は、その設立を目的とする寄附行為をもつて少なくとも次に掲げる事項を定め、文部科学省令で定める手続に従い、当該寄附行為について所轄庁の認可を申請しなければならない。
(中略)
九 収益を目的とする事業を行う場合には、その事業の種類その他その事業に関する規定
(中略)
引用元:私立学校法
寄附行為の変更申認可請は修正が入るなど簡単には終わりません。
収益事業を始める場合は余裕をもって準備を始める必要があります。
具体的には以下のような文言を寄附行為に追加することになります。
引用元:文部科学省「学校法人の寄附行為の認可及び寄附行為変更の認可申請書類の作成等に関する手引き」
収益事業の注意点①:別会計で処理する
決算書レベルで分ける!
学校法人の会計処理は学校法人会計基準に基づいて処理します。
一方で、収益事業に関する収入・支出は企業会計に基づいて処理します。
そのため、学校法人会計による決算書に部門を設けるという分け方ではなく、完全に別の決算書を作成します。
収益事業では損益計算書と貸借対照表を作成します。
学校法人会計との接点は「仕訳」
では学校法人会計とはどのように関連付けるのでしょうか?
答えは「仕訳」です。
それぞれの決算書に反映させるために、それぞれの会計で仕訳を起票し数字を動かします。
【例】学校法人が新規に収益事業を始めるため法人所有の土地を収益事業へ移管する場合
(学校法人側事業活動収支) 収益事業元入金支出 〇〇 / 土地 〇〇
(学校法人側BS) (その他の固定資産)収益事業元入金 〇〇
(収益事業側) 土地 〇〇/元入金 〇〇
学校法人から収益事業へ現預金を動かす場合は資金収支を通しますが、土地などの資産を動かす場合は資金収支は通しません。
追加論点:収益事業へ固定資産を動かしたら基本金は取り崩すのか?
学校法人会計では固定資産を処分した場合など、基本金の組み入れ対象資産が減った場合は基本金を取り崩すことになっています。
ここで、収益事業へ固定資産を移管した場合、上記仕訳の通り、学校法人会計では土地の減少が認識されます。
この場合基本金の取り崩しは必要になるのでしょうか?
結論は「取り崩す」ということになります。根拠は以下の通りです。
2‐3 その他の固定資産は基本金組入対象資産となるか
Q 貸借対照表の「その他の固定資産」に計上されている資産は、基本金組入対象資産となるでしょうか。
A
(中略)
(3)退職給与引当特定預金(資産)、収益事業元入金
退職給与引当特定預金(資産)は、その支払いに充てるために積み立てられたものであり、また、収益事業元入金は、投資を目的とする資産(「昭和49年2月文部省通知」1‐(1)参照)と同一に考えられるので、基本金組入対象資産とすべきでない。
引用元:文部科学省「基本金の組入れ」
前述した仕訳の通り、土地を収益事業へ移管すると学校法人会計では「収益事業元入金」という固定資産を認識します。
そして、この固定資産は文部科学省のQ&Aにおいて基本金の組み入れ対象外とされています。
結果、土地の減少が認識されることとなり、対応する基本金を取り崩すことになります。
収益事業で利益が出た!どうやって学校法人会計に反映させるのか?
ここでもまた「仕訳」を用いて反映させます。利益を学校法人会計に反映させる際は学校法人への「寄附」として処理します。
(学校法人側) 現預金 〇〇/収益事業収入 〇〇
(収益事業側) 寄附金 〇〇/現預金 〇〇
この寄附金の法人税法上の取り扱いは後述します。
収益事業の注意点②:利益には課税される
他の法人との課税の公平性
学校法人は公益法人であるため、税務上の優遇措置が多く設けられています。
そのため、学校法人には基本的に法人税などの税金がかかりません。
一方で、学校法人が行う収益事業については税金が課税されます。
これは課税の公平性を担保するためです。
学校法人が不動産賃貸業行ったら非課税で株式会社が行ったら課税なんてことはあってはいけませんからね。
収益事業の税金:法人税
収益事業にかかる税金としてまず「法人税」があります。
実は学校法人が行う収益事業には優遇措置があり、所得が800万円朝の部分について法人税率が通常の税率より低く設定されています。
普通法人の場合、法人税率は「23.2%」ですが、学校法人が行う収益事業の場合は「19%」になっています。
なお、800万円以下の部分はどちらも同じ「15%」です。
収益事業の税金:法人都道府県民税
収益事業にかかる法人都道府県民税においてもまた優遇措置があります。
それは「収益事業の所得の9割以上を学校法人に寄付したら非課税」という取り扱いです。
根拠条文は以下の通りです。
地方税法施行令第7条の4
第七条の四 法第二十四条第四項から第六項まで、第二十五条第一項ただし書及び第二項ただし書並びに第五十二条第一項の表の第一号の収益事業は、法人税法施行令(昭和四十年政令第九十七号)第五条に規定する事業で、継続して事業場を設けて行われるものとする。ただし、当該事業のうち社会福祉法人、更生保護法人、学校法人又は私立学校法(昭和二十四年法律第二百七十号)第六十四条第四項の法人が行う事業でその所得の金額の百分の九十以上の金額を当該法人が行う社会福祉事業、更生保護事業、私立学校、私立専修学校又は私立各種学校の経営(法人税法施行令第五条に規定する事業を除く。)に充てているもの(その所得の金額がなく当該経営に充てていないものを含む。)を含まないものとする。
引用元:地方税施行令
所得の9割以上を学校法人に寄付した場合は法人都道府県民税の計算上、そもそも収益事業に含めないという取り扱いです。
この場合、一般法人では赤字の場合でも発生する均等割も発生しません。
「みなし寄付金」の取り扱いは要注意!
「みなし寄付金」とは法人税法上、収益事業から学校法人へ寄付を行った場合、収益事業の法人税の計算上一定額を損金算入できる特例です。
一定額とは「所得金額(寄付金支出前)の50%」と「200万円」のいずれか大きい金額です。
この特例を悪用して過去に国税不服審判所で争われたケースがあります。
その判決から注意すべき点は「明確に区分経理すること」です。
裁判になったケースは、収益事業から学校法人へ寄付したお金を即座に収益事業に戻した、というものでした。
支出だけすればいいということではなく、学校に繰り入れたことをしっかりと収益事業側で経理処理し、学校法人側でも本来事業である教育にしっかり使用することが必要になります。
お金だけ動かすということは認められませんので要注意です。
まとめ
- 収益事業の種類は限定されており、所轄庁の認可が必要
- 収益事業は別会計で処理する
- 収益事業事業には税金がかかる。ただし優遇措置がある
少子化が進み、学校法人も本来の教育事業のみでは資金繰りが厳しくなるということも考えられます。
そんな時に、収益事業で教育の質を落とさず、十分な教育ができるように収益事業を活用することもあると思います。
その際は上記を参考に必要事項を整理して実施してください。