2020年4月1日から私立学校法が改正され施行されています。
その中で学校法人の管理運営制度の改善として新設されたのが「競業・利益相反取引の制限」です。
今回は学校法人における競業・利益相反取引の取り扱いと質問の多い「監事は対象なのか?」という疑問に答えていきます。
こんな方におすすめ
- 新私学法での競業・利益相反取引の取扱いの概要を知りたい
- 競業・利益相反取引の規制対象を知りたい
- 監事が取引規制の対象になるか知りたい
結論:監事は競業・利益相反取引の規制対象外
監事の職務の性質が関係している
一番多い相談の「監事は競業・利益相反取引の対象になるのか?」ですが、これは対象外です。
この結論についてそもそも競業・利益相反取引とは?というところからひも解いていきます。
そもそも競業・利益相反取引とは?
会社の利益を守るための規制
競業取引・利益相反取引はともに会社法で以下のように定義されています。1号が「競業取引」、2,3号が「利益相反取引」です。
(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
引用元:会社法
簡単に言うと、「会社の利益損なう可能性がある取引」が競業取引・利益相反取引ということになります。
何故規制が必要なのか?
勝手に取引されると自社の利益を損なう恐れ!
取締役など自社の業務執行を行っている役員はその性質上、自社の機密情報や重要なノウハウを知っていることが多いです。
また、取締役が影響力も大きい人物であれば自分の思うように会社を動かして、自分にとって都合のいい取引を成立させてしまうこともできます。
そのため、規制がなければ取締役がその秘密を使って好き勝手出来てしまうことになります。
悪意のある取締役がいれば、勝手に自社の情報を悪用して不当にお金儲けができてしまうことになりますので、そういった事態を防ぐために、法律で規制がされています。
学校法人にも適用されるこれらの規制
従来から利益相反取引の規制は存在
改正前の私学法にも利益相反取引の規制に関する規定は存在していました。それが「特別代理人の選任」です。
(利益相反行為)
第四十条の五 学校法人と理事との利益が相反する事項については、理事は、代理権を有しない。この場合において、所轄庁は、利害関係人の請求により又は職権で、特別代理人を選任しなければならない。
引用元:旧私立学校法
学校法人の理事長が代表者を務める他の法人と取引するケースなど、今までもこのような規制は存在していました。
新私学法で利益相反取引の対象拡大・競業取引についても明記
2020年4月1日施行の新私学法では、学校法人の自律的なガバナンスの改善・強化のため役員の責任の明確化が行われました。
その一環で改正されたのが競業・利益相反取引の制限です。「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」を準用する形で適用されています。
学校法人に準用された読み替え後の法律は以下の通りです。
(競業及び利益相反取引の制限)
第八十四条 理事は、次に掲げる場合には、理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一理事が自己又は第三者のために学校法人の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二理事が自己又は第三者のために学校法人と取引をしようとするとき。
三学校法人が理事の債務を保証することその他理事以外の者との間において学校法人と当該理事との利益が相反する取引をしようとするとき
引用元:私立学校法第四十条の五による一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
どこかで見たことありますね。会社法の規定とほぼ同じです。
競業・利益相反取引の規制については会社法でも私立学校法でも基本的には取り扱いが同じ、ということになります。
なお、この改正により利益相反取引における「特別代理人の選任」については不要になりました。
規制対象は誰なのか?
取引が規制されるのは「業務執行者」
競業・利益相反取引については、その性質から取締役や執行役員、理事など実際に法人の業務を動かせる人物が規制対象になります。
そもそも、会社を動かせない人物がいくら自分の利益のために自社を動かそうとしても無駄ですからね。
ただし、ノウハウや機密情報の漏洩は別の法律で罰せられます。
そのため、会社法にしても私立学校法にしても、競業・利益相反取引に関する条項の主語は「取締役」「理事」と、実際に法人の業務を執行する者となっています。
監事は競業・利益相反取引の規制対象外
そのため、業務執行の権限を持たない監事については競業・利益相反取引の規制対象外ということになります。
学校法人の監事がいくら自分のために学校法人を動かそうとしてもできませんので、規制する必要がないということになります。
監事としての責任は当然にある
しかし、いくら競業・利益相反取引の規制対象外だからといって、理事と共謀して法人に損害を与える取引を行った場合は学校法人に対する損害賠償責任が発生します。
監事の職務として「理事の業務執行の状況を監査すること」が明記されましたので、理事と共謀して取引を行った場合は任務懈怠があったと判断されるでしょう。
まとめ
- 競業・利益相反取引は「会社に損害を与える恐れがある取引」
- 学校法人にも競業・利益相反取引の規制がある
- 規制の対象は「業務執行者」。監事は対象外
2020年4月1日に施行された新私学法。
まだまだ行政の指導監査などの事例も少ないので、今後の行政の判断を踏まえて取り扱いをアップデートしていく必要がありますね。
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