
令和8年度(2026年度)の税制改正大綱が発表され、不動産オーナーや投資家の皆様にとって衝撃的な内容が含まれていることが判明しました。
これまで富裕層の相続税対策として王道だった**「相続直前の賃貸不動産購入による節税(いわゆる駆け込み節税)」**に対し、国が強力な封じ込め策を打ち出しました。
この記事では、今回の大綱で明らかになった**「貸付用不動産の評価方法の見直し」**について、何が変わり、いつから適用されるのか、実務への影響をわかりやすく解説します。
なぜ今、改正されるのか?
これまで、現金を不動産(特に賃貸マンションなど)に換えることで、相続税評価額を市場価格よりも大幅に(時には7〜8割も)下げることが可能でした。特に、相続が発生する直前に借金をして不動産を購入し、評価額を下げて相続税を圧縮する手法は広く行われてきました。
しかし、政府はこれを「租税回避行為」と問題視しており、今回の改正で**「市場価格と相続税評価額の乖離(かいり)を利用した大幅な節税」**にメスが入ることになりました。
【重要】「5年ルール」の導入:改正の具体的内容
令和8年度税制改正大綱には、以下の新しいルールが明記されました。
1. 取得後5年以内の不動産は「時価」評価へ
被相続人(亡くなった方)が、相続開始前5年以内に取得または新築した「貸付用不動産(賃貸アパート・マンション等)」については、原則として**課税時期における通常の取引価額(時価)**によって評価されます。
これまでのように「路線価」や「固定資産税評価額」を使った低い評価額は使えなくなります。
2. 評価額の計算方法(80%ルール)
「時価」といっても、毎回不動産鑑定を取るのは大変です。そこで、実務上の簡便法として以下の計算が認められる予定です。
評価額 = 取得価額 × 地価変動率 × 80%
つまり、買った金額(取得価額)の約80%程度が相続税の評価額となります。これまでの評価方法では市場価格の30〜40%程度になることも珍しくなかったため、評価額は倍近く跳ね上がる可能性があります。
3. 不動産小口化商品も対象
アパート一棟買いだけでなく、**「不動産小口化商品(不動産特定共同事業契約)」や「信託受益権」**といった商品もターゲットです。これらについては、取得時期にかかわらず、原則として「時価」で評価されることになります(ただし、適切な売買実例等がない場合は上記と同様の評価が行われます)。
いつから適用される?(適用開始時期)
この新しいルールは、以下の日付以降に相続や贈与で取得する財産に適用されます。
- 適用開始日:令和9年(2027年)1月1日
令和9年1月1日以後に発生した相続から適用されるため、現在すでに所有している物件であっても、もし亡くなった時期が令和9年以降であり、かつ取得から5年経過していなければ、新ルールの対象となる可能性があります。 ※ただし、既存の所有者への配慮として、新築物件に関しては一定の経過措置(改正通達日より5年前から所有している土地への新築は対象外など)が設けられる見込みです。
この改正が与える3つの影響
①「駆け込み節税」の効果消滅
「親の体調が悪くなったから、急いでアパートを買って相続税を減らそう」という対策は、購入から5年以上長生きしなければ意味がなくなります。むしろ、購入手数料や維持コストを考えるとマイナスになるリスクさえあります。
② 長期保有前提の投資へシフト
節税目的だけの短期的な不動産購入はリスクが高まります。今後は、純粋に賃貸経営として収益性が見込めるか、あるいは5年以上の長期保有を前提とした早期の対策が求められます。
③ 小口化商品の魅力低下
相続対策として人気だった「不動産小口化商品」ですが、節税効果が薄れることで、純粋な投資商品としての利回りがよりシビアに見られることになるでしょう。
まとめ:今後の対策はどうする?
今回の改正は、不動産を使った節税を全否定するものではありませんが、「直前の駆け込み」に対しては非常に厳しい網がかけられました。
【覚えおきたいポイント】
- 5年以内に買った賃貸物件は「買った値段(時価)」ベースで課税される。
- 評価額の目安は取得価額の約80%。
- 適用は2027年(令和9年)1月1日の相続から。
例えるなら… これまでは「閉店間際のスーパー」のように、相続直前に駆け込めば「半額シール(大幅な評価減)」が貼られた商品をゲットできていました。しかし今後は、「閉店5分前(相続直前)に入店したお客様には、定価(時価)で販売します」というルールに変わるイメージです。
これから相続対策を検討される方は、「5年」という期間を見据えた早めの行動計画が必須となります。
※本記事は2025年発表の「令和8年度税制改正大綱」に基づき作成しています。今後の国会審議や通達により詳細が変更される可能性がありますので、具体的な対策については必ず税理士等の専門家へご相談ください。