
令和8年度(2026年度)の税制改正大綱が発表されました。今回の改正は、長引く物価高への対応、経済成長の加速、そして防衛力強化のための財源確保など、私たちの生活やビジネスに直結する大きな変更が目白押しです。
特に注目されている「年収の壁」の見直しや、投資家待望の暗号資産税制の変更など、重要ポイントを分かりやすく解説します。また、各省庁からの要望がどのように反映されたのか、その舞台裏もあわせてご紹介します。
1. 個人の手取りはどうなる?「103万円の壁」から「178万円」へ
物価高に対応し、手取り収入を増やすための大きな減税措置が決まりました。最大のトピックは、いわゆる「年収の壁」の大幅な引き上げです。
基礎控除等の大幅引き上げ
これまで所得税が発生するボーダーラインとなっていた「103万円の壁」が、実質的に「178万円」まで引き上げられます。これは、物価上昇に伴う調整と、中低所得者層への配慮を組み合わせたものです。
- 基礎控除:現行の48万円から62万円へ引き上げ(物価連動)[1]
- 給与所得控除(最低保障額):現行の55万円から69万円へ引き上げ[1]
- 特例措置:さらに「基礎控除の特例」等を組み合わせ、課税最低限を178万円まで引き上げ[2]
これにより、パートやアルバイトで働く方だけでなく、多くの給与所得者にとって減税効果が見込まれます。
2. 投資家・資産形成層に朗報!NISA拡充と暗号資産の税制改正
「貯蓄から投資へ」の流れを加速させるため、金融庁や経済産業省からの要望が大きく反映されました。
未成年版NISA(ジュニアNISAの実質復活)が創設
金融庁が要望していた「全世代が資産形成を行える環境整備」[3]が実現します。
- 対象:0歳~17歳
- 年間投資枠:60万円(非課税保有限度額600万円)
- 特徴:18歳到達時に通常のNISAへ移行可能。12歳以降は子の同意で教育費等への払出しが可能[4]
暗号資産(仮想通貨)がついに「申告分離課税」へ
これまで最大55%の税率(雑所得・総合課税)がかかっていた暗号資産取引ですが、金融庁[5]や経済産業省[6]の要望通り、抜本的な見直しが行われます。
- 課税方式:株式等と同様の20%の申告分離課税へ変更[7]
- 損失繰越:3年間の損失繰越控除が可能に[7]
- 対象:現物取引だけでなく、デリバティブ取引やETFも対象
これにより、暗号資産が「資産形成のための金融商品」として明確に位置づけられることになります。
3. 住宅ローン控除の延長と省エネ重視
国土交通省が要望していた住宅ローン減税の延長[8]も認められました。ただし、内容はより「省エネ」と「子育て」にシフトしています。
- 期間延長:適用期限を令和12年(2030年)末まで5年間延長[9]
- 借入限度額:認定住宅等は維持・拡充される一方、省エネ基準に適合しない新築住宅は令和10年以降対象外に[10]
- 子育て世帯優遇:子育て世帯等への金利優遇措置(上乗せ)を、新築だけでなく省エネ基準適合以上の既存住宅(中古住宅)にも拡大[10]
4. ビジネス・企業の成長を後押しする税制
経済産業省が掲げた「国内投資の拡大」[11]に向けた要望が、強力なインセンティブとして反映されています。
大胆な設備投資促進税制の創設
高付加価値を生む大規模投資に対し、即時償却や高い税額控除を認める制度が新設されます[12]。
- 要件:投資額35億円以上(中小企業は5億円以上)、ROI(投資利益率)15%以上など
- メリット:即時償却 または 最大7%の税額控除
賃上げ促進税制の見直し
賃上げが定着しつつある現状を踏まえ、大企業向けの優遇措置は廃止されますが、人手不足に苦しむ中小企業向け措置は維持されます[13]。
5. 防衛力強化と復興財源:増税と減税の組み合わせ
防衛力の抜本的強化に向けた財源確保[14]について、具体的なスキームが決定しました。
- 防衛特別所得税(仮称):所得税額に対して1%の付加税を導入(令和9年から)[15]
- 復興特別所得税:現在の2.1%から1.1%へ引き下げ。ただし、課税期間を令和29年まで10年間延長[15]
これにより、当面の家計負担増を抑えつつ、長期的に防衛・復興財源を確保する形となりました。
6. 自動車・観光・その他の注目ポイント
自動車関係諸税の見直し
自動車取得時にかかっていた「環境性能割」が廃止されます[16]。また、電気自動車(EV)については、重量に応じた課税(重量税の特例加算)が令和10年から導入される見込みです[17]。
国際観光旅客税(出国税)の引き上げ
観光施策の財源確保のため、出国時に徴収される税金が、現行の1,000円から3,000円へ引き上げられます[18]。
ふるさと納税のルール厳格化
仲介サイトへの手数料削減や、地場産業への還元を強化するため、ポイント付与の禁止や経費ルールの見直しが行われます[19]。
まとめ:メリハリの効いた改正へ
今回の税制改正は、物価高対策としての基礎控除引き上げや、暗号資産の税制適正化など、国民生活に直接響く減税措置がある一方で、防衛財源の確保や出国税の引き上げなど、負担増となる部分もあります。
特に、長年要望されてきた暗号資産の分離課税化や、NISAの未成年への拡大は、資産形成を考える層にとって非常に大きなインパクトがあるでしょう。ご自身のライフプランに合わせて、新しい制度をうまく活用していくことが大切です。